
NBAで「最強のセンター」と聞いて、あなたはどんな選手を思い浮かべるだろうか。豪快なダンクでリングを揺らし、圧倒的なパワーでゴール下を支配する巨人——そんなイメージが一般的かもしれない。
しかし、その常識を静かに覆した男がいる。ニコラ・ヨキッチだ。彼は跳躍力でねじ伏せるタイプではない。スピードで相手を置き去りにするわけでもない。それでも、間違いなく現代NBAを代表するスーパースターである。
2巡目指名というスタート
ヨキッチは2014年のNBAドラフトで2巡目41位という決して高くない順位で指名された。加入したのはデンバー・ナゲッツ。当時の彼は「将来性はあるが未知数」という評価で、大きな注目を集める存在ではなかった。
ドラフト中継で名前が呼ばれた瞬間は、ファストフードのCM中だったという有名なエピソードもある。それほどまでに期待値は高くなかったのだ。
しかし、そこからの成長が常識外れだった。
センターの概念を変えた男
ヨキッチの最大の武器は、センターとは思えない視野の広さと判断力である。ポストに立ちながら、コート全体を見渡し、瞬時に最適なパスコースを見つけ出す。
ノールックパス、バックハンドパス、ハイポストからの精密なアシスト。彼のプレーはまるでポイントガードのようだ。味方が動き出す前から次の展開を読んでいるかのようなパスは、観る者を驚かせる。
だが、彼はパサーだけではない。ポストプレーでは柔らかなタッチで確実に得点を重ね、ミドルレンジやスリーポイントも高確率で沈める。さらにリバウンドも強く、気づけばトリプルダブルという数字が並ぶ。
派手さはない。しかし、確実にゲームを“設計”している。
MVP、そして頂点へ
2020年代に入り、ヨキッチはリーグの中心へと躍り出る。シーズンMVPを複数回受賞し、「現代NBA最高の選手」との声も高まった。
そして2023年。ナゲッツを球団史上初のNBA優勝へ導き、自身もファイナルMVPを受賞する。
プレーオフを通して安定したパフォーマンスを披露し、得点、リバウンド、アシストのすべてで圧倒的な存在感を示した。彼は試合を“支配”するというより、“組み立てている”かのようだった。
静かなリーダー
ヨキッチの魅力はコート外にもある。派手なパフォーマンスや自己主張を好まず、インタビューでも淡々と語る。勝利の喜びよりも、家族や故郷セルビア、そして愛する競馬の話題を楽しそうに話す姿が印象的だ。
だが、その自然体こそがチームに安定感をもたらしている。エースでありながら、自分が点を取ることよりもチームの正しいプレーを優先する。その姿勢がナゲッツを本物の強豪へと押し上げた。
ジャマール・マレーとのコンビネーションも絶妙だ。お互いを信頼し合い、ピック&ロールから無数の選択肢を生み出す。その連携は、リーグ屈指の武器となっている。
知性が頂点に立つ時代
もちろん守備面での機動力など課題が議論されることはある。しかし彼はポジショニングと読みで補い、チームディフェンスの中で最大限の効果を発揮する。
ニコラ・ヨキッチは、「IQと技術でNBAを制することができる」ことを証明した選手だ。
豪快さよりも巧妙さ。
爆発力よりも持続力。
それでも彼は間違いなく、リーグの頂点に立つ存在である。
今日もまたデンバーのコートで、静かに、しかし確実に試合を動かす男がいる。
気づけば点差は開き、
気づけば勝負は決まっている。
それこそが、ニコラ・ヨキッチという“異端の王者”の本当の恐ろしさなのだ。

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